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正しく怖がろう(牛肉)セシウム汚染

  BSE禍でも、ここまでの急落はなかった。東京食肉市場で7月19日に取引された和牛去勢A4等級の卸売価格は加重平均607円。前週末平均の半値にも届かない。

 発端は福島県の肥育農家が出荷した牛の肉から検出された、国の暫定基準値(1㌔あたり500ベクレル)を超える放射性セシウムだった。その後、セシウム汚染の稲わらを給与した肉牛の出荷が全国各地で判明。一部の牛肉はすでに消費された可能性があるとの報道も相次ぎ、牛肉市場の混乱に拍車をかけている。

 自然災害や疾病に都のナウ風評被害の大半は、正確な情報が末端に十分浸透していないことに起因する。逆に、ある事象への情報量が一方に偏在した場合、事の本質や価値、優劣、軽重、善悪などの判断を鈍らせることもある。情報の非対称性と呼ばれるものだ。

 実は、今回のセシウム汚染報道でも情報の非対称性が目に付いた。汚染稲わらを与えた肉牛の情報量は集中豪雨的にだったが、たとえば「流通した牛肉を食べても、ただちに健康被害はない」などの情報を伝えたメディアは少数派。そうした情報格差、不均等な情報構造が牛肉の安全性や品質に対する風評被害を広げた側面は否めない。

 東京大学の唐木英明名誉教授は食の安全・安心に関して、NHKの情報番組で「安全な情報を信頼できる人が確実に伝え、その情報を多くの人が使いこなせば(社会に)安心感が生まれる」旨、語っている。その意味で政府や自治体が発表する安全情報も「ただちに」や「当面は」といったあいまい表現でなく、もっと直截的な数値で説明すべきだろう。

 ところで、食品で放射性物質を体内に取り組み内部被ばくする放射線量は、【汚染度合(ベクレル)×(摂取量÷1千㌘)×摂取日数×係数0.000013=(㍉シーベルト)】で求められる。

 暫定基準値500ベクレルの放射性セシウムに汚染された牛肉を毎日1㌔、一年間食べ続けた極端な例でも、内部被ばく量は自然界で浴びる年間放射線量と同じ2.4シーベルト。最高4350ベクレルが確認された牛肉は20.6㍉シーベルトで、発がんリスクが高まるとされる100㍉シーベルトの閾値比べ5分の1だ。

 その100㍉シーベルトも、国立がん研究センターなどのデータによれば一般人70歳の発がん率30%が32.8%に高まる程度。喫煙や飲酒の方が発がんリスクは5割近く高い。それでもデータの少ない内部被ばくについてはDNAを傷つけるリスクはゼロではないなどの論調もある。

 しかし、生物の細胞は進化過程で、傷ついた遺伝子を修復する複数の酵素システムを獲得しており、少量の放射性物質を体内に取り込んでも細胞が受けるダメージは自然放射線からの影響と本質的に違いはないそうだ。みえない放射能におびえるのではなく、科学的知見など正確な情報で"正しく怖がる"、冷静な判断力こそ養いたい。

 この問題は日々揺れているが、緊張の課題は牛肉市場の一刻も早い正常化。全頭か全戸かの議論はあるが、全国一律の放射能検査体制の構築、買い支えに協力した流通業者を含む補償範囲の拡大など安全機能が正常に働き、生産者や販売業者、消費者の安心を担保するしかない。

 そして、少なくとも基準値以下の牛肉が市場から排除されないような仕組みを早急に作らなければならない。

(食肉通信 2011年8月10日号から抜粋)