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沈静化したBSE

(食品化学新聞 平成26年1月30日から抜粋)

沈静化したBSE

 牛海綿状脳症(BSE)は、プリオン(感染性タンパク質)によるもので、宿主の正常なものが構造異性体に変化した以上プリオンが原因で発生する。
 
 BSEは、1990年代をピークに英国を中心に欧州で多数発生し、96年WHOにより人への感染が指摘され人畜共有病とされた。

 世界のBSE牛発生頭数は、現在までの累計で19万頭強と報告されている。発生のピークである92年には年間約3万7000頭強を数えたが、飼料規制の強化、特定危険部位の除去によりその後大幅に減少し、2010年には44頭、11年には29頭、そして12年には21頭に減少した。

 一方、日本におけるBSE牛の発生は、01年3頭、02年4頭、03年から07年には各年度3から8頭の発生で、08年の1頭を最後にそれ以降の発生はなく、合計36頭であった。

 BSE牛を食べることによって発生する変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の患者は、昨年末までに英国を中心にフランスなど12ヵ国の累計が226人で、2000年の29人をピークに12年は2人まで減少した。 
 
 BSE対策として有効であった施策は、特定危険部位(牛頭部《舌およびほほ肉を除く》、脊髄、回腸遠位部《日本では04年2月指定》)の除去と、飼料対策としての肉骨粉の使用禁止であったと報告されている。

 国際獣疫事務所(OIE)において、日本は、「無視できるBSEリスク」ステータスの国に昨年5月に認定され、BSEはほぼ終焉を迎えたと言える。

 以上が世界および日本でのBSEの概観であるが、食品の安全面における重要な課題として以下、考察を加えてみたい。

 国内初のBSE牛が発生したのは01年9月である。このBSE牛の発生、腸管出血性大腸菌O157,輸入野菜の残留農薬問題など、国民の食生活を取り巻く危害要因の出現が契機となり、03年7月食品安全基本法が施行された。同時に、厚生労働省、農林水産省等のリスク管理機関から独立して、科学的知見に基づき客観的・中立公正に食品健康影響評価を実施する食品安全委員会が設置された。ここにリスク分析手法によって、リスク評価、リスク管理、リスクコミュニケーションと、食品の安全対策の科学的な手法が確立されたと言える。

 食品安全委員であった見上彪氏が、「食品安全委員会の10年の歩み」の中の雑感で次のように述べられている。「委員在任中の7年7か月の間、リスクの許容範囲をどのように考えるかについて常に悩んだ。食の安全に関わる世界のほとんどのリスク評価機関は「100万分の一」をリスクの目安としている。一方、我が国においては、ゼロリスクを良しとする風潮がある。食品安全委員会発足の契機ともなったBSE問題では、特にゼロリスク論者が社会のあらゆる階層に多く存在し、統計学的な確率論による許容範囲を受け入れようとせず、費用対効果など全く顧みず、牛や牛肉などの管理面での取り扱いや安全性とは関係のない全頭検査などで、税金の無駄遣いをしてきた。これらに対して自分自身はなすすべもなく、内心忸怩たるものがあった」。
 
 例えば、BSE対策の一つであるBSE牛の検査は、と殺または死亡牛の延髄閂部から採取した検体を、ELISA法による迅速検査や病理組織学的検査、ウエスタンブロット法等による確認検査により、一定量以上のBSEプリオンを検査する。この場合、延髄閂部に検出限界を超えるBSEプリオンの蓄積がなければ、感染牛は発見できず、潜伏機関の後期にならなければ、感染牛を検出することはできない。BSEの潜伏期間は、平均5年、ほとんどの場合が4~6年であることが確認されている。また、日本では、BSEプリオンが存在する特定危険部位はすべての牛から除去され、食用にはまわらない。このような科学的背景の中でも、日本では、従来から20か月齢超の牛にこのBSE検査が義務付けられていた。さらに、自治体によっては全頭検査を実施していた県もあった。昨年来の食品安全委員会の評価結果に基づき、今年4月から30か月齢超、7月からは48か月齢超の牛のみの検査を義務化するように見直しされ、地方自治体もこれに従うことになった。長い年月経てやっと科学的なリスク評価の結果を尊重することになった訳である。

 日本人の特性としてゼロリスク追求は、食の場合には当てはまらないことを理解しなければならない。国民全体が、最新の科学的知見に基づくリスク管理をよく理解し、公平な立場で判断できるようにリスクコミュニケーションを徹底することである。これができなければ、食料・食品を生産、加工、販売、摂取する目的を見誤るのではないだろうか。

 食品に要求される要素は、人の生命を健全に維持するための、美味しさ、経済性、安全性、健康の維持・増進、簡便性等であり、安全性は、現在の科学レベルに基づいて、公正に判断されるべきものであろう。

技術士(農業部門)石田賢吾 (石田技術士事務所)